Client Interview
Client Interview
お豆腐をもう一度、食卓へ。
2段構えのブランディングで目指す改革。
代表 尾﨑 俊平さん
- [インタビュー・執筆]
- 藤村 志乃笑
行動を起こさないと、
豆腐は売れなくなる。
依頼内容と、そこまでの経緯を教えてください。
- 尾 :
「白くて四角で味がない」という豆腐のイメージを変えるようなパッケージとブランドを、と依頼しました。
20歳で豆腐屋に入りまずは製造の現場、その後スーパーなどへの卸しの担当をしました。豆腐の売り場はどこも地味で代わり映えせず、隣のかまぼこコーナーのカラフルさや季節感と比べても商品に個性がないなと感じていました。何か行動を起こさないと豆腐は売れなくなる、と危機感を持っていました。ある日失敗したゆるめの豆腐を固めてみたらおいしくて「これは行けるぞ!」と。黒蜜をかけて食べる新商品として自作のパッケージで出してみたら見事に1つも売れなくて、これはもうプロに相談すべきだと悟って、それで依頼をしたというわけです。
尾﨑社長との初回のお打ち合わせ、第一印象はいかがでしたか?
- 羽 :
長く豆腐に関わってきて思い切った改革をしようとされていること、「豆腐はまずいものと思われている。本当はおいしいということを知ってほしい」という思い、「和の表現はしたくない」という言葉に衝撃を受けましたね。これまで「和」や「京」の表現が当たり前だった豆腐のイメージを、大きく変えたいという強い信念が感じられたからです。
- マ :
お豆腐屋さんの社長と聞いて勝手に年配の方を想像してたから、単純に「若い!」と驚きました。スタッフさんも若くてパワーがあって、会った瞬間からうまくいくと直感しました。ブランドを運営するのはクライアントさん自身。今までにないブランドを手渡してもうまくやっていかれるだろうと思いました。
どのようなやりとりからはじめたのですか?
- 尾 :
相談のタイミングで、これまでにない新商品の開発を始めました。自分たちのことも豆腐のおいしさも知ってほしかったので、この段階からデジマグラフさんにも協力してもらいました。その過程で、改めて「まずはきちんと豆腐のおいしさを伝えよう」という思いが自分の中で明確になり、できたてのおいしさを直接お客さまに届けられる「移動販売」の形式を取ろうと決心したんです。
- 羽 :
月1回のお打ち合わせのたび、新商品候補の試食をしながらスタッフさんと意見交換しました。その開発のペースの速さ、種類の多さには本当に驚かされました。新しいことをやっていくというマインドにあふれる会社だと肌で感じられたし、弊社としても商品開発という上流部分から関わらせてもらうのは初めての経験。ありがたかったですね。
和のイメージを封印したい。
- マ :
開発される新商品もどれも本当においしかったんです。昔、できたての豆腐がみんなのごちそうであったように、もう一度「豆腐はごちそうになれる」という思いで「ごちそう」「ソイ(大豆)」を組み合わせた造語でGOCHISOY(ゴチソイ)のネーミングを提案しました。豆腐という食材を未来に残すなら子どもたちにこそ覚えてほしいと思って、子どもが覚えやすい4文字のネーミング案を3~4パターンご提案し、イチオシのGOCHISOYに決定となりました。
- 羽 :
ロゴは、「和」の表現が当たり前だった世界に思い切り「洋」に振ったブランドを打ち出すということで、豆腐と大豆がわかりやすいデザインを心掛けました。
提案を受け、どのように感じられましたか?
- 尾 :
「和」の表現は嫌だと自分で言っておきながら、提案されたものはこれまで豆腐業界で全く見たことのない感じのものばかり。「豆腐店」というワードも入ってないし「豆腐屋ってわかるのかな」と正直、違和感しかなかったですね。でもマルチノさんに「その違和感、楽しんでください」と言われて。「そうか、これが新しいことをやるってことだな」とわかった気がしました。
- マ :
違和感を感じるという感想はたまにいただくんですが、うれしい反応です。これまでに前例がない、独自性が担保されていることの証だからです。今回のご依頼は、これまでにない豆腐のブランドを作ることでした。誰でも、見たこと・聞いたことあるものには安心感を覚えます。「違和感」はライバルがいないことがわかる1つの指標です。ただ、それを運用していけるかはクライアントさん次第。パイオニア精神旺盛な尾﨑社長と若いエネルギーにあふれるスタッフさんがいたから、思い切って提案ができました。
パッケージやネーミングに関しては、いかがでしたか?
- 尾 :
これも驚きの連続でしたね。「こう来たか!」と意表を突かれる提案がいつも楽しみでした。でもお客さまの反応を見ていたら、やっぱりデジマグラフさんは正しかったと思わざるを得ない。さすがですね。
- 羽 :
移動販売という方法が決定し、商品についてはスタッフさんがお客さまへ口頭で説明するということがわかっていたので、情報を最小限にし削ぎ落としたパッケージデザインにしました。
- マ :
スタッフさんが「豆腐についてこんなに説明を受けたことない」というくらい丁寧に話されるので、クリエイティブの仕事はフックづくりだなと思いました。お客さまが「これ何だろう」と興味をひかれるもの、スタッフさんの説明のきっかけになるようなものなど、思い切ったネーミングができました。
実際にGOCHISOYの移動販売がスタートしてからの反響は?
- 尾 :
打ち合わせを始めて1年後、商品をはじめ諸々の準備が整ってゴチソイの移動販売をスタートしました。それから5ヶ月後には2台目、6ヶ月後には3台目を走らせるまでに。いろんなメディアにも取材してもらいました。県内各地にたくさん応援してくださる方が増えて「おいしいね」「いまどこで売ってる?」「またあれが食べたい」とたくさんの声をいただいて、豆腐のおいしさが伝わってるのを感じて。本当にうれしかったですね。それに、ゴチソイの活動を見て「かっこいい!一緒に働きたい」という仲間が入ってきてくれたのは、豆腐屋に生まれてどこか肩身の狭い思いをしてきた自分にとって、何よりうれしい出来事でした。
- 羽 :
現在は長崎県内だけでなく、福岡・天神のデパートにも出店されてます。豆腐づくりのエキスパートになろうと、商品開発のスタッフさんは「豆腐マイスター」の資格も取得されました。最初は6商品くらいだったのが、今では30種類以上。会社全体としての向上心、機動力の高さに圧倒されました。
- マ :
乳製品を一切使わないというルールを課しておられるので大変なはずなのですが、続々と試作品が届くんです。親の目線で開発されたお子様向けの商品も多く、さすがだなぁと思いました。移動販売車が今どこにいるのかわかるように、GPS機能を活用したウェブサイトも整えられました。
最大のライバルは、ゴチソイ。
そこから2つ目のブランド、mameSTRO立ち上げに至るまでのいきさつを聞かせてください。
- 尾 :
尾﨑食品としては現在、従来通りの「絹」「木綿」豆腐を、主にスーパーへ卸し販売しています。これをすべて新たなブランドに移行して、多くの人に豆腐のおいしさを伝えたいというのが、最大の目標でした。
ゴチソイはその前段階として、まずは昔ながらの対面販売でお客さまと向き合い「作りたてのおいしさ」を届けるという活動。そのため尾﨑食品ではなく意図的に別会社での運営としていました。ただ、ゴチソイは時間も手間もかけた手作り商品。限られた場所・人にしか届けられない、量を担保できないという課題があるのも事実です。ゴチソイで確実な手応えと課題を感じたところで、いよいよ本題である尾﨑食品本体のブランディングに取り掛かる時期だと判断しました。- 羽 :
マメストロは対面販売ではなく、卸専用の商品。デパートやスーパーに並びます。ゴチソイの時のようにスタッフさんの接客という援護射撃がなく、商品単体での勝負となります。パッケージは売り場で主張できる佇まいと、タテヨコどちらでも自立できるデザインにこだわりました。ゴチソイが支持されたあとのご依頼だったので、ゴチソイに負けないようにと思いました。「大豆のプロが作っている」ということをマメストロのブランド名に含ませています。
- マ :
「洋」のイメージで行きたいとお話があった時、卸商品で「洋」に振って大丈夫かなと不安だったのですが、ヒアリングを続ける中で「和のイメージは必要ない」と思えるようになりました。よくよく考えると今の日本の食卓は洋食のほうが多いですし、豆腐や大豆製品と新たな気持ちで出会えると思いました。また、尾﨑社長から「売り場では絹と木綿の選択肢があるけれど、その違いはお客様にはぼんやりとしか伝わっていない。」と教えていただいたのは大きかったです。実際、私自身も見た目以外の違いがわからずになんとなく買い分けていました。そこでパッケージには風味や食感、合う料理などを記載し、豆腐を楽しく選べるようにしました。
- 尾 :
お客様の率直なご意見をもとに、より美味しく豆腐を食べていただけるようマメストロを作り上げているところです。
現在、両ブランドとも業績は順調だそうですね。
- 羽 :
繰り返しになりますがスタッフさんのエネルギー、有言実行の社長の力です。「こうしようと思う」とおっしゃったことが、しばらくすると実現している。これって本当にすごいことだと思います。
- 尾 :
ありがとうございます。デジマグラフさんに依頼してよかったと心から思っています。正直、かかる費用は大きいんです。安さを優先するなら他にいくらでも選択肢はあるんですが、費用以上のサポート、質の高い効果的なクリエイティブは他には真似できないものがあります。クリエイティブを突き詰めているデジマグラフさんに、頼まない理由が今は見つかりません。
- マ :
ありがとうございます。弊社としてはゴチソイもマメストロも、スタートから急成長まですべてをアリーナ席で見せてもらっているような、かけがえのない機会をいただき感謝しています。
最後に、今後の目標をお聞かせください。
- 尾 :
今後、現状の尾﨑食品の商品を全てマメストロに移行していきたいというのが当分の目標です。2021年は食品表示法の改正の年。原材料と、体へのやさしさにこだわってきたからこそ、この改正を追い風にできると考えています。日本中、海外の方にも豆腐と大豆のおいしさを届けていきたいですね。